詩歴


主観で書ける経歴なんてげろの臭いしかしない
だから 冷やした血を暴れ馬のようなろくろになする
それでどうなるの、といえば
どうもならない けど
馬蹄形の孤島に生まれ
歯抜けと、歪んだ後頭部を持ち、薄ら笑いで三歳から詩を書いていた
盗んだ金で動物の目玉を買い込んでは、それら大小さまざまを丸呑みすることで育ってきた
すっくすくだよ、畜生
入江に漂着したイルカの腹から「へヴンリー」八月号が掻き出されたのは十三歳の夏
ヨニとかヨワとかの言葉を読んで
あ、俺のいままで書いてた詩は、詩ではなくてねしょんべんだったんだなと
ミイラになったふたこぶらくだのリラックスチェアで雨に打たれ揺られながら、気付いた
詩のことはアロネに訊いた
彼女はつぐみで、嘴から万国旗が出続ける病気にかかっていた
その糸を繰りながら俺は真剣に話をきいた、尊敬していたから
白鳥という苗字も
アロネにもらったものだ
万国旗を繰るのがだるくなってくるとくちの中に指を突っ込んで
ひとでいえば舌を摘んで千切るような感触を味わい続けた
十四歳、麦秋の季節、流れ者のギタリストが金網の街でパンクス(ゾンビ)に撲殺された
トロイメライを聴きながら
歯形でものを考える世界のなれ果てを生きているのだと思うと
心底恥ずかしかったから
ひとおもいにやってくれることを期待して出向いてみた、結果
知らん間に最初の詩を書いていた
「それを先輩のグリーンディーゼルに捧ぐ」
廃校を渡り歩き、九月のめっちゃ気持ちいい雨上がりの水溜りを股にかけ、
友達ができないじぶんを肯定する、その補強に関しては超高校級になった
あっかんべーして くちから詩行の短冊が垂れた
この頃十八歳、糞つぐみのスタイルが生きた
短冊を引っ掴んでえづきながら繰り出すと、それがたぶん詩になって、あと
Tシャツに胃液がしみて世界地図みたいにも、みえた
神います
腹いたい
二十歳のときまで〈抒情〉の読みを間違えていたことは内緒
ついに島を出る朝に、写真屋に行った、遺影にマフラーが必要だと感じていたから
顔面を隠して撮った、むしろレンズを覆い、その状態でパスタスナックを食べている俺を隠し撮りしてくれと願った
祈り
行長を昇る精霊
俺はだれよりも一行を無駄にして
クリーンディーゼルかも知れない、といまうっすら思いつつ
過去は振り返れない
二十二歳、いちばんこわいものは駄洒落、カイヨワ‐カイワレのレベルで大体失敗するようになる
この頃咳をすると三半規管が耳からこぼれるようになり、ある日駄犬にちぎられて、以降料理屋で買った蝸牛を両耳に入れている
などと、薄明からの酔歩に日々勤しんでおり、そうしている間にもたくさんの美醜が死んでは生まれ
息絶えては産声をあげ、倒れ起き上がり、流された種が電柱に蔦を這わすようなケイゾクがあって
尖塔の頂で座禅を組みながら、ようやく島から出たじぶんを地図上に発見できる
メサ・ヴェルデの断崖を素手で登り、指先は血で滑らせ
ガールという名の鉄橋をスウェードのプーマで踏破していた
サイクリングザックには
糞鳥の万国旗、とれない胃液みたいな思い出
世界、というないものの両端に、つぐみの遺物を虹のように架けるんだと
それだけは約束していた
二十三歳
「最近ごきぶりを見ていないなあ」と思った
二十四歳
ブラックジャックがじぶんの腹を手術するエピソードにまだ憧れてた
二十五歳
アントシアニン大学に留学し、十五年間教職を務め、長期に渡る拘留と保釈を繰り返し、
穴開きの肺がいよいよ潰れてなくなったころ、空を飛びながら詩集を上梓する
東京の上空では主にカラスが読者となってくれ、つちかった友情パワーで先端恐怖症を克服する
腹の中を探り合うひとたち
黒い意味ではなく、みんなミニドラになって
おなかの中を探検するのだと思うとかわいい
ヘヴンリー
ヘヴリウェア
アイムブルー
「恥ずい」
満月の夜、素足で触れる窓枠は冷えて、影にお面を貼っただけのじぶんが、軋む身体で飛び降りていた
羽よひらいて、と一瞬だけ真顔になれて
この真顔を探すための二十五年間だったのかと
すこし空しく、すこし、嬉しく、思う 思いながら隠した
それとは関係ない場所で今も美醜は戦っていて、だれと、そしてなんのため
共闘、あるいは対立の四季を
動き止まない太陽との距離に
預けている
島のことはもう忘れた
きょうも島の夢を見る
引き裂かれ
というならそう
経歴、胃液
きのう顔面が痙攣した
二十六歳、うそっぽいはなし
どうしようもないけれど
これは
ほんとのはなし